手根管症候群

手根管とは?

手首(手関節)部で神経が圧迫されて手指(拇指~環指)のしびれ(図1)と夜間から明け方の痛みを生じ、進行するとボタン止めなどの細かい動作に障害が出現します。中年以降の女性に多発しますが、年齢と性別に関係なく手作業やスポーツ手の外傷後にも合併します。

図1 しびれの範囲と母指球の萎縮

日本手外科学会より引用

手根管症候群の原因と病態・症状

明らかな原因なく発症する突発性手根管症候群は、中年以降の女性に多く最近では老年者にも多く見受け
られます。手作業やスポーツにより手指を酷使した場合には手根管を通る屈筋腱の腱鞘炎が起こるために、手指前腕の骨折や外傷でも手部の腫脹により手根管内圧が上昇するために正中神経が圧迫を受け発症します。手根管は手根骨(8個の小さな骨)の手のひら側に浅いU字のトンネル構造となっていて、9本の指の屈筋腱と正中神経が表層を通過します。トンネルの蓋となっているのが横手根靭帯であり、手根管内圧の上昇に伴い横手根靭帯により正中神経が圧迫されるのが病態です。正中神経は手根管を出てから拇指~環指の橈側の知覚枝として分布します(図2,3)。正中神経は手根管内で拇指球筋に運動枝を出すので進行した場合に母指球の運動麻痺(拇指の対立運動障害、摘み動作の障害)が出現します。

図2 手根管の構造と神経の分布 

図3横手根靭帯と正中神経の走行

日本手外科学会より引用

手根管症候群の診断と治療

典型的な知覚低下の領域と夜間痛などで診断の予想が可能で、手関節を90度屈曲位にまげて保持する(30秒程度)と、手根内圧が上がるのでしびれの出現、増強が認められ、もとに戻すとしびれが軽快します(ファーレンテスト、Phalen’s test)。ファーレンテストが陰性でも、手関節屈曲位で手指の屈伸を10回程度繰り返すことによりしびれを誘発(Dynamic Phalen’s test)や、逆に手関節を伸展させて保持する誘発テスト(逆ファーレンテスト)も診断に役立ちます。手根管からやや近位で正中神経の走行に沿って軽くタッピングするとビリッと神経支配領域に刺激が走ります。チネルサイン(Tinel sign)と呼ばれ、神経の損傷部位に出現します。これらの臨床症状で診断が可能ですが、不確実な場合には筋電図を用いた神経電動速度の計測が可能で、圧迫部位で速度が遅延することで判断します。症状が軽度の場合には、局所の安静(手関節固定装具の使用も考慮)と投薬を、症状が強く、期間も長い場合には、ステロイドの手根管内への注射と局所安静を選択します。保存的治療が無効な場合は時期を逸することなく(拇指球の機能不全の発現前)に手術治療が必要です。細かい作業や握力低下など母指球筋の機能不全が認められれば早急に手術が必要です。通常、手掌近位に2-3㎝の皮切を加えて横手根靭帯を切離することで(手根管開放術)手根管は除圧され、術直後より疼痛は軽減、消失します。しびれの回復には圧迫の程度機関により様々で3か月程度まで必要な場合があります。母指球筋の萎縮が明らかな場合は、手根管の除圧でも(若年者を除き)麻痺筋の回復は期待できないので腱移行を用いた拇指対立再建術が必要となります。

手術症例の実例

80歳代前半女性、5年前頃より右手のしびれを自覚していたが放置、痛みが強くなったとのことで紹介受診となった。母指球筋は完全に委縮し摘み動作が不可能tなっていました。直ちに手術を決定、手根管開放術と同時に環指の浅指屈筋を拇指に移行して拇指対立再建も同時に行った。

図4 母指球筋の萎縮が著名 図5 摘み動作が不可能 図6 横手根靭帯を切離
図7 拇指に移行した環指屈筋腱 図8 術後3週拇指対向可能  図9 示指と摘みが可能となった
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