拇指CM関節症

拇指CM関節症とは

拇指CM関節症とは、親指の付け根の関節(CM関節)の退行変性(加齢による)病変です。拇指はつまみ動作、握り動作など手の使用に際して常に働いています。拇指の付け根にあるCM関節には、指先にかかる力の約8倍(最大40㎏)の力が作用すると報告されています。
CM関節を支えている靭帯が緩むことにより、中手骨が外側に亜脱臼します。すると中手骨と大菱形骨の関節面の支える面積が小さくなり、単位面積当たりの圧が高まるので関節軟骨がすり減ってきます(関節裂隙の狭小化)。人体の反応として関節面を広くさせて、圧を下げるために関節の端が突出する様に変形が進行(骨棘形成)します。そのために、CM関節の動く範囲が少なくなり(可動域制限)、痛みが強くなってきます。特に親指を大きく広げることができなくなり(内転拘縮)、次いで拇指の先端を広げるためにMP 関節が過伸展(拇指のスワンネック)変形となることがあります(図11,13)。
自覚症状としては、タオル絞りやペットボトルのキャップの開閉が困難となり、さらに進行するとドアノブ、水道の蛇口の開閉も困難となってきます。拇指のCM関節症の進行をレントゲンの変化で評価したのがEatonの分類(図1)と呼ばれ世界的に使用されています。

Stage1 関節形態正常 関節裂隙の軽度開大
Stage2 関節裂隙の軽度狭小化 2㎜未満の骨棘形成
Stage3 関節裂隙の著明な破壊 2㎜以上の骨棘形成
Stage4 Stage3に加えて大菱形骨周囲の変形性関節症

図1EatonのStage 分類

 

拇指のCM関節症の装具療法

レントゲン的に関節破壊の少ないStage 1,2 の時期には、対症療法としての内服と外用薬に加えて装具療法で対応します(図2)。
病初期に中手骨のアライメントを整えて、求心性を持たせることで症状の軽快と病変の進行を抑制できる効果は高く評価されています。局所の安静が主体となる手関節から固定するサポータタイプ(A)のものとシリコン製で外転位保持を主体とする装具があり亜脱臼も征服されます(B,C)。
長時間の使用が必要なので、仕事内容と装着感などで患者様本人に選択していただきます。

図2.装具療法図2.装具療法

治療法の概要

痛みの強い時期のステロイドの関節注射は、Stageに関係なく有効な治療法で、一時的な軽快だけでなく、数か月効果が持続することがあります。装具療法を併用することで手術への移行時期を延ばすことも可能なので、注射歴の無い場合には手術前に一度は施行する様にしています。
保存的治療により症状が軽快しますが、残念ながら個人差もありますが、経時的に関節病変は進行することになります。

図3.
治療法の概要
内服・
外用薬
装具療法 関節内注射 手術療法
Stage1 靭帯再建術
骨切り術
Stage2 骨切り術
Stage3 関節形成術
Stage4 関節形成術

手術療法の概要

図4. 骨切り術図4.骨切り術

Stage 1 で保存的治療により効果がない場合には、病変が進行する前にこの時期にしか適応のない術式があります。緩んだ靭帯の縫縮や中手骨の骨切り術によりCM関節の求心性を取り戻すことにより病変の進行を予防が期待できるのですが、次に記述する関節形成術ほど劇的な効果がないことは理解すべきポイントです。経過により関節形成術への移行も理解して行う術式です(図4)。

図5 左2枚:40前半男性、右2枚:40後半男性・工員図5 左2枚:40前半男性、右2枚:40後半男性・工員

Stage 1 で不安定性のみであれば靭帯の再建術、Stage 1,2で中手骨のアライメント不良(内転)があれば中手骨の骨切り術により外転位を再獲得します。プレート固定が必要なので、傷跡も考慮すると、スポーツ選手、比較的若年の男性が好適応となります。骨切り術は、中手骨の長さと本来の関節を保持するので、力強い使用に耐えうる術式です(図5)

図6. 関節固定術図6. 関節固定術

Stage 3,4 の進行した病変に保存的治療で軽快しない場合には、関節固定術と関節形成術があります。関節固定術は以前国内で積極的に行われた術式ですが、ポケットや狭いところに手を入れることが出来ないことや骨癒合に時間のかかることもあり、関節形成術の不良例に対する最終手段と我々は考えていまが、力仕事をする男性には行うこともあります(図6)。

CM関節形成術の種類と効果はいまだに国内外の学会や論文などで常に話題となる状況です。まず大切なことは、痛みのある関節を取り除くために大菱形を切除(部分切除、半分切除、全摘出)することで、同時に第1中手骨の基部を第2中手骨方向に引き寄せる靭帯再建が必要となり、さらに摘出した大菱形骨の部分に腱を埋め込みクッションとする考え方と何も介在させなくてもよいという意見があり、これらの組み合わせで色々な術式が考案されています。関節鏡を使用した関節形成術は、手術侵襲が少なく、ほぼ同様の内容で実施されることもありますが、限られた施設で行われているのが現状です。当院では、関節鏡視下の手術は行っていません。

図7.関節形成術術図7.関節形成術術

関節形成術では、大菱形骨の切除後の関節面の間隔が狭くなることにより痛みや可動域制限が再発することがあるので、大菱形骨の全摘出術や、靭帯再建の徹底と腱の介在(interposition)を行うことで症状の再発予防を行うことが推奨されてきました。アメリカ手外科学会の調査でも過去30~40年間でBurton法に代表される術式が最も一般的に行われいます。それ以降で、最も注目すべきなのは、靭帯再建なし、腱の介在(interposition)も必要なく大菱形骨の摘出と仮固定のみというシンプルな術式が提唱されました。摘出した大菱形骨の空間には血液が充満し血腫(Hematome)ができて、そこには繊維細胞が増殖してきて瘢痕組織が形成されてスペースが保持できるというのが根拠で、一時期米国で流行し、摘出するだけで仮固定も必要がないという報告も出現しました。

人工靭帯の開発

図8.左:ミニタイトロープのキット、右:人工靭帯による固定 図8.左:ミニタイトロープのキット、右:人工靭帯による固定 

ところが、近年CM形成術に特化した人工靭帯(ミニタイトロープ)を開発した米国のグループが、大菱形骨の全摘出と人工靭帯による靭帯再建を発表し世界的に流行しています。日本国内でも人工靭帯を用いた手術法が広まりました(図8)。

Burton 法の問題点

図9.Burton 法の問題点 図9.Burton 法の問題点

このホームページに Burton法について詳しく記述したのは7年前頃でしょうか?この記事を読まれて沢山来の患者様が来院されました。Burton法の術式は1988年より継続して行ってきた方法で、術後の成績も安定しています。ただ、術式がやや煩雑で、手のひら側にある橈側手根屈筋腱を採取するために前腕中央部に手術痕が残ること、術後鋼線による拇指の仮固定を行うため、抜釘までの6週間の間ワイヤーの刺大入部の突出や痛み、皮下感染などの合併症がありました(図9)。
当然、世界的にも最も行われている方法なので、術後の問題を解決するための工夫の1つが人工靭帯ですが、人工靭帯のみ頼るという当初の方法から、何らかの自己腱による再建を併用する方法が大切という報告が国内で多数報告されていて、日本の手外科のレベルの高さを感じています。

当院の現在の術式

図10. 当院での現在の術式と利点 図10. 当院での現在の術式と利点

1)大菱形骨全摘出、2)人工靭帯による靭帯補強(固定)、3)APLの介在と吊り上げという3つの要素を同時に行っています。
実際の術式は皮切はCM関節直上の外側部約2㎝で、大菱形骨の全摘出を行います。次いでレントゲンイメージ下に第1中手骨基部から第2中手骨基部よりやや遠位に向けて人工靭帯のキットのワイヤーを刺入し方向と部位を確認後第2中手骨のワイヤーの出口に1㎝程度の皮切を加えて人工靭帯をCM関節から引き出して付属のチタン製のボタンにより強固に縫合します。その後に、同じ視野内で長母指外転勤腱(APL)を同定し(複数ある腱から太くてしっかりした腱を選び)遠位中枢側に付着部を残して可及的遠位で切離(約35~40mm)する。これを(大菱形骨摘出した間隙から)掌側にある橈側手根屈筋腱(FCR)の周囲を回して背側方向に引き戻して(2回)元のAPLに縫合します。
背側のAPLが掌側のFCRのところで折り返してAPLに縫合することにより中手骨基部をAPLにより遠位に吊り上げる効果があるので(ハンモック法と呼ばれる)、人工靭帯が緩んだり、切れた場合などのセカンドラインとして支える効果が期待できます。
術後の固定は必要なく、4~5日で動かすことが可能、2週で抜糸後、デスクワークも可能。

手術症例

ミニタイトロープ + ハンモック法

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